一番最悪なデート

KIYOSHI

TBS系列で四夜連続放映中の「一番大切なデート」を
観ていて、ふと思い出したことがある。

それは大学一年の冬、クラブで知り合って
間もない女のコから届いた一通のメールがきっかけだった。

その内容というのは、ライブに一緒に行かないかという
お誘いだった。しかも、友達にドタキャンされたらしく、一人で
行くのが嫌だからチケット代はおごりでいいと言う。

相手がそれほど親しくなくても、やはり遊びの誘いは嬉しい。
カワイイ感じのコだったし、割と会話もかみ合ったので
二つ返事でOKしたのだが、詳しく話を聞くと、
そのライブとは、あの氷川きよしのコンサートだった。

いやいやいや、華の女子大生が何でよりにもよって
氷川きよしのコンサート行きたいねん!

心の中でそう突っ込みつつも、まだそれほど親しくもない
相手を傷つけるわけにはいかない。
「あ、そうなんだ。あの…ズンドコ節とか知ってるよ」
と適当なフォローを入れつつ、会話を合わせる。
聞けば、ファンクラブ・ナンバー三桁代の筋金入りの
氷川きよしファンだと言う。
一緒に行くと言ってしまったからには、もう断ることはできない。
男ってバカだよね〜。


そして、忘れもしない12月15日。
彼女と有楽町で待ち合わせ、東京国際フォーラムのホールAを
目指した。そこで立て看板にでかでかと書かれたコンサートの
タイトルに目を奪われる。
その名も、「きよし、この夜」。
あと10日と迫ったクリスマスに引っ掛けてつけたらしい。
そのネーミングセンスに深い憂慮を抱きつつも、敢えて
突っ込まない。
そう、隣に連れ添っている女は、おそらく、おそらくは
本気で氷川きよしが好きなのだ。
この場では彼女のファン心理を害するような発言は慎まなくては。
心に固くそう誓って歩を進める。

客層は予想通り、平均年齢50を軽く超えている。
年頃の女性がいるとしても、たいていは母親に無理やり
連れてこられたといった様子。
そんな中にあって、彼女と俺の姿は異彩を放っていた。
この時点でテンションは奈落まで落ちる。

しかし、彼女は容赦ない。どうしても氷川きよし
ファングッズが欲しいと主張して、1時間待ちの列に
並ぶことを強要された。何も買わないわけにはいかないので
氷川きよしのブロマイド&うちわ、計1500円を購入\
あー、金の無駄 泣

コンサート開始前からすっかり消耗しきってしまったが、
遂に会場内へ足を踏み入れる。
そして、ついにコンサートの幕が開いた!
何故か、ゴンドラでステージ上へ降り立つきよし。
しかもその背中には何故か翼が生えている笑
笑いを堪えきれなくなった僕は、隣に座る彼女の肩を
たたき、爆笑しながら、
「あいつ、アホやなぁ、おもろいわー」と話しかけた。

いや、正確には話しかけようとして、思いとどまった。

だって…彼女…

号泣してるんですもん 笑

ほんっとに、号泣 笑

氷川きよしをナマで観ることが出来て、
感動のあまり泣いてしまったんですね。

一般的に言って、20前後の女子大生って
ふつー、氷川きよし観ても、泣きませんよね。
爆笑しますよね。俺のリアクション間違ってないですよね??

その瞬間、はっきりと分かった。
あぁ、このコは俺に気があるとかそういうのじゃなくて、
真剣に「氷川きよし」のコンサートに来たかったんだと。

そして、悟った。このコとは根本の部分で
絶対に分かり合えない。少なくとも、俺には
氷川きよしを目の前にして号泣するという
リアクションは理解できない笑

あぁ、来るんじゃなかった。来るんじゃなかった。
僕の頭の中を後悔の念が渦巻く。
「そういえば、明日は試験(メディコム入所試験)だったな」
「俺はこんなとこで何やってんだろう」
そんなことを考えていると、なぜか目が潤んできた。
なんで俺まで泣いてるんだろう。と思うとますます悲しくなる。

その刹那、彼女の視線が俺に向く。
なぜか、こっくりとうなずく彼女。

あーーーー!絶対勘違いされてる!絶対!
なんか通じ合っちゃった、みたいな空気醸し出すのやめて!

心の中で必死に叫ぶが、もはや後の祭り。

延々3時間も続いたコンサートが終わると、
なぜかカラオケ店に連れ込まれ「ズンドコきよし」を強制的に歌わされる。
振りも完璧に覚えさせられた。

ん?勿論オールでしたよ。

それが、僕の「一番最悪なデート」にまつわる思い出。
以来、どんなに可愛くて気の合う相手でも、
いつか、氷川きよし好きとか言い出すんじゃねぇか
って考えてしまいます。
トラウマです。フラッシュバックです。心的外傷後ストレス症候群です。

翌日の面接試験はおかげで?散々な結果でしたとさ。

ちなみに、そのときの面接官が皆さんご存知のあの方です。