血の団結

ゴッドファーザー

うちの一族は結束が固い。

毎年夏には、祖父の「集合!」の一言に反応して、
一族の20名超が、箱根に一同に会する。

総勢20名超の大所帯ともなれば、部屋数もたいしたものだ。
たいてい、コテージを2軒貸し切る。
宿泊費は全て祖父持ち。
既に80歳を超えているが、身体は衰えても
その豪快な気質は全く衰えを見せない。

アメリカンドリームを夢見てカリフォルニアに渡った
曽祖父に連れられて、幼少期をアメリカで過ごした祖父。

排日移民法の制定と同時に日本に帰って来て、
すっかり英語も忘れてしまったと語るが、
50歳を超えてからヨーロッパ、アメリカ、
ブラジル、中東諸国、アフリカと世界中を旅して
回ったアクティブさの根幹は、アメリカで生活した時の
経験によって培われたものであるように思う。

昔、日本橋高島屋で働いていた頃には、
銀座を流さずには帰れなかったと豪語する、
現代に生きる「モボ(=モダンボーイ)」でもある。

祖父の日本人離れしたところと言えば、アクティブさに加えて、
家族を大切にする姿勢だと思う。
前述したように、家族の絆を保つためならお金を惜しまない。
根っからの親分気質の持ち主だ。
その姿はまるでゴッドファーザーのロバートデニーロのよう。
なんてね。勿論、純日本人的な顔立ちをしたデ・ニーロだけど笑

そんな祖父に連れられて、明日から箱根に行く。
毎年、夏の恒例行事と言ったが、実は僕自身、
この箱根旅行に参加するのは8年ぶりだ。
最後に家族で箱根に行ったのは15歳の夏。
それ以来、なんだか足が遠のいてしまった。
理由は単純だ。「飽き」である。

4歳か5歳の頃から10年以上も毎夏を箱根で過ごせば
飽きもしよう。それに加えて、箱根は確かに大人にとっては
避暑地として魅力的に映るのだろうが、子供だった僕には
退屈な土地だった。プールで泳ぐには寒い。関所などの
遺跡めぐりには興味がない。博物館なんてなおさら。

そうした感覚は今でも変わらない。
だが、実はこの箱根旅行、今年で最後になりそうなのだ。
あれだけ元気だった祖父は最近、めっきりと老け込んでしまった。
痴呆が進んで、偶に妹のことを母親だと思って話すこともある。
家にひきこもるようになり、足腰も弱った。
体力的にも、遠出できるのは今回が最後になるだろう。

そんなわけで、なんだかセンチメンタルな話になってしまったが
「最後の箱根なんだから」という母の声に背中を押されて
8年ぶりのプリンスホテルへ。

祖父のような求心力を持った存在を、そう遠くない将来に
失ってしまうだろうことが、悲しい。


きっと祖父がいなければ、叔母や叔父、従兄弟と
今ほど親密な関係を築くことはできなかっただろう。
貴重なものって失って初めて貴重だと気付くんですよね。


最後の箱根を、余すことなく楽しんできます。